先日、友人とレストランで食事をしていた時のことです。私と友人はメニューを見ながら一緒にシェアするメイン料理を何にしようかと考えていました。「オーストラリアのWagyuにしようか、それともオーストラリアで牧草を食べて育った牛のお肉にしようか、、、。」その時です。一緒にいた友人が私に「ちづさん、牧草を食べて育った牛のお肉食べた事ある?」と聞きました。私は「食べた事があるけど、うーん。正直少し独特な味がしたような気がする。。。」と少し迷いながら言いました。そうすると友人が「確かに独特のスパイシーな香りがあるから、初めて食べるとそういう印象を持つ方も多いみたい。。。」と私の意見に共感をしてくれました。そして彼女は続けて、「私がオーストラリアに行くと友人たちがバーベキューに招待してくれて、お肉をジュージュー焼きながらこんがり焼き色をついたビーフを指して彼らが言うの!これが、ビーフの味だ!この広大なオーストラリアの牧草を食べて育った牛の味こそ、まさにビーフを食べているって感じがする!!って。だから、私はね、日本でも、この牧草を食べて育ったビーフを食べるとお肉を楽しむ感覚はもちろん、オーストラリアの友人たちとワイワイ楽しく一緒に食事をしている気になるの。」。。。それを聞いて、私もオーストラリアでバーベキューに一緒に参加していたような気分になり、広大なオーストラリアの大地に思いを馳せてしまいました。もう、まったく迷うことなく、その広大な大地を感じたくて!!!牧草を食べて育った牛肉をオーダーすることを決意していました。
このエピソードから弊社のオーストラリア人の社長が、以前「ステーキではなく、シズルを売りましょう!」を引用したことを思い出しました。この言葉は皆さんも、お聴きになったことがあるかもしれません。友人は私にステーキを売るセールスパーソンではありませんが、「シズル」を使ってアイディアを売り、私の背中を押し、行動を起こさせるという点においては、セールスとの共通項があると思います。それでは、実際のセールスの場面でも有効な「シズル」について考えてみたいと思います。
「シズル」とは、商品そのもの以外の魅力ある特長のことです。お客様の視点に立って利益を売りましょう。五感に訴えて、お客様が商品を買う事により得られる、満足感や期待感の事です。何が「シズル」なのでしょうか?それを「シズル」だと思うのはなぜでしょうか?「シズル」は 1 つだけでしょうか?ステーキを売ることを例に出すと、その量や質、産地、焼き具合、におい、味わい、見た目、ジュージュー焼ける音、食べた時のシチュエーション、会話、気持ち等々についてうまく表現することで「シズル」つまり魅力ある特徴を強調し、利益を発見してもらう事でお客様の購買意欲をそそります。
私の友人は「牧草を食べて育った牛のお肉を食べた事がある?」と聞いてくれました。実際はセールスの場面に置き換えて考えると、お客様に関心を寄せ質問をするという事がとても重要なのです。ところが胸に手をあててみると、実際のセールスの場では私たちが常に肝心なところで憶測を立てて質問をせずに話をすすめてしまっていることも多くあります。
例えば、ステーキの例の場合、個人的なまたは文化、宗教上の理由で、お客様がお肉を食べないかもしれません。お肉を召し上がる方でも、もしかしたら、仔羊かジビエ、あるいはシーフードを好む人かもしれません。セールスの場面では、質問をする前に、自分が売りたいものに対するセールス・ピッチを始めてしまいがちではないでしょうか?
お客様に質問をし、お客様の状況を把握できてこそ「シズル」をお伝えすることが生きてきます。ステーキが焼かれるときのにおいやジュージューというシズル音は分かりやすい例かもしれません。もちろん、ステーキではない商材を扱っている方でも「シズル」を売る事は可能です。セールスの世界では、すべての道はローマに通じます。ローマへの一歩として、まずは相手に関心を寄せ、質問をすることから始めていただきたいと思います。
こんにち、インターネットのおかげで私たちのウェブサイトは会社や個人、製品、サービスに関する重要な情報を集めることができるようになりました。私たちが話をする前に、お客様はインターネットでリサーチができます。便利な反面、残念な事に双方向のコミュニケ―ションではないため、彼らが持つあらゆる質問や懸念、疑問を私たちが事前に予測することが難しいのが現状です。セールスの役割はウェブサイトが果たせないことを行うことにあります。特にB2Bセールスではお客様と直接お話することが必要になってまいります。お客様のニーズを引き出すためにも丁寧に質問をしていきます。そして、彼らの答えと、私たちが提供するソリューションとを関連付けて話します。時には戦略的、分析的思考が求められる場面もあります。お客様が同意しているかどうかを確認することも覚えておきたいです。他社との差別化を図るために、多様な表現の引き出しを持っておくこともお勧めです。お客様の感情に訴えつつも、論理的にお客様の決定の手助けをしていくのです。
また、AIの技術が発達し、お客様の関心を引き出すための質問をきちんとこなすことができるようにもなりつつあります。それでも実際にセールスの方が直接、自分に関心を向けて質問をしてくれ、サポートしてくれた時の一体感やエンゲージメントに勝るものはないように思います。
冒頭で紹介した私の友人はまさに、私の答えに共感し、「言葉の絵」を描いて実際に私がその場にいて一緒にワクワクしたような追体験をさせてくれました。「シズル」とは、お客様に共感しワクワク感を共有するという側面も持つのかもしれません。お客様に関心を寄せ、質問をし、お客様の価値観を理解します。その上で言葉の絵を描き、お客様と同じ絵を見て感動を共有するのです。
昨日のことです。私は、ジョギングの途中でたまたま見つけたマルシェに足を止めました。そして、ニュージーランドからワインを輸入しているという方とお話をしました。「どんなお食事をめしあがりますか?」から始まり、ニュージーランドの気候、大自然が育んだニュージーランド人の優しい素朴な気質、作り手の心、ニュージーランドのハイキングコースの話にまで至りました。朝からニュージーランドへの旅行を疑似体験したような気もちになりワクワクしました。そしてどうしてもワインを味わいリラックスしながらその美しい心や風景に思いを馳せたいという気持ちになりました。ジョギングに出かけただけなのに、帰りにはワインを3本手にし、帰宅していました。まさに、つくづく私は「ワイン」ではなく「シズル」を買ったのだと思った瞬間でした。
セールスの皆様、「モノ」を売るのではなく「シズル」を売りましょう。
そう、セールスのお仕事は、お客様にワクワクの気持ちをお買い求めいただくことなのです!