『こちらの企業ではこんな成果が出たんです!』商品の良さを伝える証拠として多大な威力を発揮する成功事例の紹介ですが、こと日本において、顧客から事例紹介の了承を得るのは、簡単ではありません。表に出た情報が会社にどのような影響をもたらすか、先方も慎重になるわけです。たとえ円満で大きな成功に収まったとしても『紹介はNGです。』と断られるかもしれません。この難題解決のヒントはあるのでしょうか。
先方に「NG」と言われた場合、たいていは会社規定などの理由から本当にNGであることが殆どで、この決定を覆すことはまず難しいでしょう。『この素晴らしい成果を成功事例として使わせて欲しいんです』といくら頼んだところで、『紹介したいのはやまやまなのですが、1社に許可をだしたら、他社にも許可出さなくては『えこひいき』になってしまうので、会社の方針で出来ないんですよ』と、こちらが『ですよねぇ~』とつい口に出してしまいそうになる回答が返ってくることでしょう。『どう転んでも悪い影響は出ないし、他社とうちの商品とじゃ与える影響も違うじゃないか!』と思われたとしても、ここで食い下がりすぎてしまうと、我々の信頼性への影響も考えられる訳です。では、どんな工夫が出来るでしょうか。
まず考えられるのは、漠然と頼むのではなく、明確な紹介内容を『どのように』公表する予定ですと、先方に伝えるかを計画立てることです。成功事例の紹介には、大きく分けて『口頭』と『文面』の2種類があります。いずれの場合でも明確さと簡潔さが求められるのですが、ここで結果、つまり『商品導入によってこんな成果が出たんです』から明確に始めます。更に、商品が提供する問題への解決策により、先方の現在状況がどれだけ素晴らしいものであるかを強調するようにします。そうすることで、先方も広告になりますし、我々として他企業にも同様の効果が期待できるかもしれないということを告知することが出来るのです。また、この時に我々の信頼性も示します。考えるべきは、どうしたら先方にとって極力リスクが少なく、大きなリターンが期待できるかなのです。
交渉相手にこの魅力的を伝えた後は、お持ちであれば他社事例を出してみてもよいでしょう。実際に許可を得て紹介を既に出している会社様にどれだけよい影響が出たかを話してみてください。この時、物語調で交渉相手に伝えると更に効果的です。単に他社が得たメリットとリスクの少なさを伝えるのでは面白みがなく、聞き手の意欲をかき立てにくいものです。許可が出るまでの物語を商品導入の時からさかのぼって、まるで冒険談のように語るのです。関わった人物やその方々の当時の悩みを説明することで、聞き手の心に共感や感情移入を生み出しやすくなります。たとえばこのようなお話しが出来ます。「あるお客様で村上さんという課長様がいらっしゃいました。当時、上層部からのプレッシャーが厳しくなる一方で、村上さんは期限までに成果を出さなければならないというストレスのために昨年春、ついに胃潰瘍を患われてしまいました。状態は芳しくなく、通院のために欠勤も出始めたことから、村上さんのチーム全体が、プロジェクトの仕事を期限までに終えることができないかもしれないと心配を始めていました。目標達成への他部署からの目もあり、チーム全体が懸命に働きましたが、行き詰ってしまったそうです。」 どのような困難で、それにより誰に影響が出たという描写をすることで、話に具体性を持たせることができました。特に相手の感情に訴えかけるシーンにおいて、エクセルファイルで目標の数字に達していないということを示すよりも、こういった伝え方は相手の感情を刺激します。聴き手はまるで追体験をしているように、自分たちの状況に当てはめ、どう感じるかなど想像力を働かせるためです。
困難と影響を述べた後は、この問題を解決するためにどのようなソリューション提供があったかについて話します。これは、物語の「私たちはどうやって成功したか」の部分にあたり、ここでも何が起こったかを機械的に淡々と伝えないよう注意しましょう。解決策が誰にどんな影響を与えたのかを具体例を入れ込んで話すのです。ここで注力すべきは、提案した商品の良さ、つまり解決策の利点を多く語るよりも、提供したことで先方が得られた利点と、その利点をどのように活用したか、という点を強調します。
たとえばこのように伝えます。「弊社から導入いただいたXYZソフトウェアは、弊社が持つデータと人工知能の技術が組み合せて使用されており、ここから期限に間に合わせるために必要不可欠なプロセスステップを特定しました。これにより、チームの作業時間を数百時間分削減できただけでなく、効率性が向上したため、実際には期限より前にプロジェクトを完璧に終えることができたのです。村上さんも安心をされ、体調が回復に向かい、チームも多大な功績を認められて表彰をされたそうです。会社としてのも、社内他部署は勿論、社外の方にも『我が社はサポート体制が万全で、その為の費用は惜しまない』とアピールするマーケティングの機会になったということで、社長様も非常にお喜びになったと後程伺いまして、そのおかげもあり紹介のご許可をいただけたのです。」と続けます。
敢えて会社の固有名詞は避け、担当者のお名前のみを使って、具体性に溢れたエピソードを文書にして交渉相手に伝えてみましょう。勿論、話を聞いてくださる関係性のある方で、十分な時間を頂戴していることが前提とはなりますが、このストーリーテリングのテクニックを使い、聞き手を感情的に引き込むことで、主要な論点が生き生きとしたものになり、相手はシナリオを自分たちと関連付け、結果がどうなったか知りたいと思わせることができるようになります。この手法は強力な交渉道具となりえます。折角ご経験されている豊かで貴重な詳しい実例を是非ご買うよういただき、これらの要素をまとめて上手く相手に伝えましょう。
そして最後に、『ですから○○さん、紹介をご検討いただけますか?無料のマーケティングツールとして御社のブランドイメージ向上にも役立って見せます。』と締めてください。そして必要があれば、決済権限を持ち方に直接私からお話しも可能ですし、文面化も出来ます。とあくまで相手の負担を極力減らす提案をしてください。そうすれば、交渉成立の可能性は格段に上がります。